プランニングのつぼ
工務店さんや設計事務所と住まいの打ち合わせをする前に、家族みんなの考えをまとめておく。じつはこれはとても重要なことです。そしてとても難しいことでもあります。
STEP1 ゾーンプランを考える
- ゾーンプランとは…
いよいよ我が家づくりがスタート。まずはプラン全体のイメージをつかむために、ゾーンプランからスタートしましょう。ゾーンプランとは、部屋の大きさ、位置、組み合わせなどを決めていくために、目的別 に大まかな部屋の配置を考えることです。使いやすさ、重要度などを考慮してつくる、いわばプランのラフスケッチのようなものです。
- パブリックゾーンとプライベートゾーン
ゾーンは部屋の機能によって、パブリックゾーンとプライベートゾーンにわけられます。
例えば、来客の多い家では、パブリックゾーンを充実させたプラン、また、家で仕事をすることが多い場合は、プライベートゾーンを広くとるなど、パブリックゾーンとプライベートゾーンは、その家族によって必要度が変わりますので、家族みんなで話し合うことが大切です。
- ゾーンプランを描くには…
ゾーンプランを描く際、配置を決めるには、動線が深くかかわってきます。動線とは、家事や接客、日常の暮らしでの人の動きのことです。通常、家事の動線ラインと接客の動線ラインは重ならないようにします。また、キッチンとダイニングとのつながりは当然ですが、水回りをなるべく1ヶ所にまとめて、動線を短くすることも、使い勝手が良くなります。
動線をスムーズにするために、廊下やホールだけで部屋がつなげるのではなく、部屋同士のつながりも良くしたプランのことを、サーキュレーション(循環)プランといいます。それぞれの家庭の条件に合わせ、家事動線・接客動線の優先されるものを決めましょう。
ゾーンプラン例
1階をパブリックゾーン、2階がプライベートゾーンにわけたプランの場合。
特徴
- 水回りがまとまっているので、家事がしやすい
- 和室が単独でも、またリビングと一体化して広く使うことができる
- プライベートルームの独立性が高い
- 建物の配置もゾーンプランで考える
間取りづくりのベースになるゾーンプランですが、部屋の配置とつながり方と共に大切なのが、家の配置です。敷地にどのような位置で家が配置されるかによって、駐車スペースや庭の広さ、玄関までのアプローチのとり方、陽射しの採り入れ方も変わります。ゾーンプランを考えるときは、建物の配置も含めて、トータルに考えておくとよいでしょう。
STEP2 ライフスタイルを生かした間取り
- 暮らしのスタイルをプランに反映しましょう。
ゾーンプラン(間取りのおおまかな配置)で住まいのアウトライン(輪郭)が見えてきたら、今度は「どんな暮らし方をしたいか」ということを、もう一度考えてみましょう。ご家族の望むライフスタイルを思い描くだけでも、さらに具体的な間取りのイメージが見えてくるはずです。
- 同じゾーンプランでも間取りは大きく変わります。
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たとえば…
「お友達も大勢呼べる、にぎやかな暮らし」というご希望があったとします。それなら、リビングとダイニングはひろびろ使えるワンルームタイプにして、隣接する和室も続き間として利用できるようにすると便利。ホームパーティーなどにもピッタリです。反対に、ご両親様などお泊りになられる来客が多く、「気持ちよくもてなせる家に」というご希望であれば、和室は客間として独立させた方がよいかもしれません。ダイニングやキッチンも、リビングから丸見えにならない分離タイプがオススメです。
このように、ライフスタイルの違いによって、同じゾーンプランでも間取りの組立て方・考え方は大きく変わってきます。ですから、「どんな暮らし方をしたいか」ということを、ご家族みなさんでよく話し合っておきましょう。
- ライフスタイルの「変化」も考えましょう。
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間取りを組み立てる上で、もう一つとても大事なこと。それは、将来の暮らしもある程度イメージすることです。
たとえば…
年をとったら足腰に負担の少ない1階の寝室が便利だといえますね。新築時には2階に寝室を設けても、将来的に寝室として利用できる居室またはスペースを一階に確保しておくのもよいでしょう。その場合、そこからトイレなどへの移動がスムーズにできるかどうかも前もって考えておきたいですね。新築時点でのニーズばかりを考えた間取りでは、将来思わぬ不便が生じてしまうことがあります。ご家族の成長、お子様の独立などによってライフスタイルも変わっていくのは当然のこと。10年、20年先を考えて、収納スペースは充分か、暮らしの変化にも間仕切りの変更などで対応していけるのか、といったこともプランニングにおける大切な検討事項であることをおぼえておきましょう。
STEP3 スムーズな動線計画
- 家の中における人の移動を考えましょう。
いよいよ間取りの組立てがイメージできるようになったら、次は住まいの中における人(や物)の移動経路、すなわち動線について考えてみましょう。毎日の生活において、いかにスムーズに行き来ができるかという大切なポイントです。
- 動線は「なるべく短く」が基本です。
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たとえば…
お料理をしながら同時に洗濯機も回す、というのはよくあること。そのような場合、キッチンと洗濯機置場が離れた場所に配置されていたら、考えただけでも不便ですね。また、洗濯機から勝手口や干し場への距離もできるだけ短いほうがいいでしょう。大きくて重い洗濯カゴを抱えて、長い距離を行ったり来たりすることが毎日ではとても大変ですよね。それから…
日に何度も移動がある部分については、より短い動線で行き来できるようにしたいもの。それぞれの居室、特にお年寄りの寝室などからトイレまでの移動が不便を感じるものではいけません。場合によっては身体にたいへんな負担をかけることにもなってしまいます。このように、人の動きや効率を考えて目的の場所を近づける工夫を、部屋の配置から家具や設備まで含めて考えることが大切なのです。「タテ」の動線にも充分配慮し、上下階への移動も楽にできるようにしましょう。
- 動線の種類を把握して計画しましょう。
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ところで、動線には'種類'があるということはご存知でしょうか?
主なものとしては次の3つ。炊事や洗濯、掃除などの「家事動線」、ご家族が居室間やトイレ、お風呂などへ移動する「生活動線」、そしてお客様が移動する「来客動線」です。暮らしやすさを考えたら、種類の違う動線がなるべく交わらないことが大事。特に「来客動線」が他の動線と交差しないようにすることは、ご家族のプライバシーを考える上でも大切なことなのです。たとえば…
玄関から客間(リビング)などへ行き来する動線上に、浴室や洗面所など家族ための空間を配置しないほうがよいでしょう。来客中は使いづらくなってしまいますし、出入りのタイミングを誤るとお互いに気まずい思いをしてしまいますものね。家の中の移動は毎日のことですから、動線の設定を間違えると大きなストレスのもとになりかねません。そのようなことが起らないように、まずは間取り図をじっくりながめてみましょう。そして、頭の中で移動のシミュレーションをしてみる。そうすれば、暮らしやすい住まいの動線がきっと見えてきますよ。
STEP4 収納計画にもひと工夫
- 収納の設定はしっかりと。
暮らしの中にあふれ、日々増えていくモノの数々。これらを効率よく収納して気持ちよく生活できるように、プランニングの段階でキチンと計画を立てておきましょう。一般的に言われる収納面積のめやすとしては、少なくとも延べ床面積の10%ぐらい。余裕をもって収納するには15%以上あると望ましいとされています。でも、収納量を確保してモノがきちんと納まるというだけでは、私たちの暮らしに充分とはいえないのではないでしょうか。
- ここにあったら便利、を考えましょう
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たくさんのモノや日用品と上手につき合えるように、収納の「使い勝手のよさ」を考えるのも、欠かせないことのひとつ。暮らしの中で必要な場所や、ここにあれば便利という場所へ、適切に収納を設けましょう。
たとえば…
ご家族が多かったり食品を買い置きすることの多いご家庭なら、パントリースペース(食品庫)をキッチンの隣りにつくると便利。お中元などのいただきもの、ケースごとのビールといったものも邪魔にならず保管できるだけでなく、自家製の漬物や梅酒づくりなどの楽しみも広がります。パントリーを設ける空間のゆとりがない場合には、壁厚を利用した埋込み式の収納を、キッチンに近い廊下の壁面などにつくるとよいでしょう。また、スポーツやアウトドア好きなご家族なら、玄関横に靴を履いたまま出入りできる納戸があるとよいですね。床よりも低い位置の土間から、天井までの高さがめいっぱい使えるので、サーフボードなど長さのある道具も立て掛けることが可能。多少汚れてしまったものでも、そのまま収納できます。
ライフスタイルによっても、便利な収納の位置は少しずつ違うはず。「ここにこんな収納が欲しい」という意見を、ご家族で出しあっておくとよいですね。
- 「見せる」収納を上手に活用しましょう。
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ひんぱんに使用するようなモノはパッと目に入り、取り出しやすいところにある方が便利。それに、奥の方にしまい込みたくない品も意外と多いもの。そこで、「見せる」タイプの収納がオススメです。
たとえば…
オープンな棚収納を居室の壁面につくるとたいへん役立ちます。大小の棚を組み合わせて天井の高さまで空間を利用できるので、いつも眺めていたい思い出の品々や、普段づかいの小物も無理なく並べられます。お気に入りの鞄や帽子などを、ギャラリー感覚で収納するのも楽しいですね。また、納戸などの'隠す'タイプの収納にも、見せる収納の考え方は応用できます。しまうモノの種類ごとに棚を設け、どこに何があるか一目でわかるようにすれば空間の無駄がなく、何より出し入れが楽なのが大きなメリット。ウォークイン・クロゼットなら夏服用・冬服用二段のハンガーパイプにすれば、しまい込むことなく上下の入れ替えだけで衣替えも簡単にできます。
収納というと「しまい込む」ことをイメージしてしまいがち。でも一番大切なことは、モノを次に使いやすい状態で納めることです。どこに何を置いたかがわかりやすく、取り出したり入れ替えたりが簡単にできるということ。まずそれを考えて収納を設けたいものですね。
STEP5 基本動作を考えた空間・設備設定
- スムーズな「動き」のための寸法を考えましょう。
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私たちが暮らしの中で行うさまざまな基本的動作には、それをスムーズに行うために必要な、または適した寸法があります。プランニングにおけるおおまかな部分がイメージできたら、住まい各部分の空間や設備の、サイズ設定を考えてみましょう。
- それぞれの動作にぴったりの、高さや広さがあります。
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たとえばこんなこと、ご存知ですか…
身体に負担が少なく効率的に使えるキッチンのワークトップの高さは、身長÷2+5(cm)といわれています。もしあなたの背の高さが160cmだとしたら、ワークトップを85cmに設定すると毎日のお料理も楽な姿勢でできるというわけです。また、トイレ空間の寸法にもめやすがあります。窮屈さを感じず、スムーズに立ち座りの動作をするためには便器の先端から前の壁(またはドア)まで最低50cmは必要です。
このように居室に比べ広さを確保しにくいサニタリー、毎日使う設備などは特にそのサイズを意識して、プランニングを進めましょう。前もって生活の中のいろいろな動作をシミュレーションしておおよそ必要な広さ・高さなどを掴んでおけば、工務店との打合せ時に細かな部分の使い勝手まで確認することができます。
- 将来的な動作の変化にも備えましょう。
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ここで、ひとつ考えておきたい大切なこと。それは、現在だけではなく将来の動作の変化にも対応するサイズ設定です。そこでバリアフリーの観点から確保しておきたい、さまざまな部位の寸法のめやすをご紹介します。
たとえば…
廊下の幅は78cm以上、居室やトイレのドア開口幅は75cm以上必要だといわれています。
ただしこの寸法ちょうどでは、自走式車イスでの通行には少し不便。バリアフリーへの備えを万全なものにするなら、廊下は85cm以上、ドアは80cm以上で設定すればさらに望ましいでしょう。また、高齢になると階段の上り下りは辛いものです。
身体への負担や事故の危険を減らすには、勾配を緩やかにすべきです。そのめやすとして、階段1段における高さとその奥行きの比率を、6/7以下にするのが望ましいとのこと。つまり、もし一段の'高さ'が18cmだったら、'奥行き'は21cm以上に設定すれば高齢者はもちろん、すべての人に負担が軽い、ゆったりとした階段になるということです。また、浴室やトイレの空間寸法にもバリアフリーの視点でとらえためやすがあります。
「介護・介助」が必要となった場合を想定するなら、浴室は2.5m²以上(間口・奥行のどちらか短い方の長さが1.4m以上)の面積があると望ましく、トイレなら便器前方だけでなく側方にも50cm以上の余裕があるとよいでしょう。図面を見ただけでは、そこでの「動き」はイメージしにくいかと思います。
今回ご紹介したそれぞれのめやすを参考に、現場見学会などで実際の建物をご覧になって確認していただくとよいでしょう。建ててから「しまった」ということがないように、将来のこともしっかりと見越した空間・設備設定をしたいものです。